第160話「ビーチャム&RPO アメリカ・コロンビアのためのフィリップス録音」
レコード芸術1996年11月号のサー・トーマス・ビーチャム=デョスコグラフィ(制作=菅 一&マイケル・H・グレイ)に気になる記事が載りました。 ロンドンのウォルサムストウ・タウンホールにおいて、1953年12月に15曲の録音が行われた。この録音の原簿とアメリカ・コロンビアのために制作したレコードに関し、ロンドンのフィリップスが保存していた記録は、すべて破棄されていた。従って、ニューヨークのコロンビア社の演奏家ファイルから情報を得てきたのである。演奏はすべてロイヤル・フィル(RPO)のものである。 1. ベートーヴェン:序曲「コリオラン」Op.62 2. ベルリオーズ:テ・デウム Op.22 3. ベルリオーズ:歌劇「トロイ人」より「トロイ人の行進」 4. ボッケリーニ:序曲ニ長調 5. ブラームス:悲劇的序曲 Op.81 6. ドヴォルザーク:交響的変奏曲 Op.78 7. マスネ:オラトリオ「聖処女」より「聖処女の最後の眠り」 8. メユール:歌劇「ティモレオン」序曲/同「にせの宝物」序曲、同「若きアンリの狩り」序曲 9. モーツァルト:交響曲第35番ニ長調 K.385「ハフナー」 10.シューベルト:交響曲第1番ニ長調 D.82 11.シベリウス:「カレリア」組曲 Op.11より「行進曲風に」 12.チャイコフスキー:組曲「くるみ割り人形」Op.71a 13.チャイコフスキー:交響曲第2番ハ短調 Op.17「小ロシア」 14.ワーグナー:舞台神聖祝典劇「パルジファル」より「聖金曜日の音楽」 15.ワーグナー:楽劇「神々の黄昏」より「ジークフリートの葬送行進曲」 1953年12月といえば、デニス・ブレインがその創設時から在籍(1949年を除く)していたRPOを退団したとき。11と12は1990年にEMIが出したビーチャム・エディションに入っていたものの、LP時代からいずれも日本で未発売できちんとした紹介や評価を得ていないもの。それが「すべて破棄」とあれば永遠に聞けないものと諦めていました。 これらフィリップス録音の殆どを含む所謂「謎のCBS録音」が2001年から2003年にかけて全26巻(27CD)と別番号のディーリアス全録音5枚組で一挙にCD化された訳ですから本当に驚きました。メユールの「若きアンリの狩り」は、ブレインがその主題を後の1955年のBBC講演リサイタル「初期のホルン」の冒頭で水撒きホースやハンド・ホルン、モダン・ホルンで吹き分けてみせたもの。チャイコフスキーの第2交響曲冒頭では、ブレインとファゴットのグィディオン・ブルックが素晴らしいニュアンスで吹いていて、まるで夢か幻のようです。Sir Thomas Beecham: The CBS Recordings
2011年06月04日 15時50分23秒
第159話「サー・トーマス・ビーチャム没後50年記念盤/リエンチ序曲」
英国でサー・トーマス・ビーチャム(1879-1961)の没後50年を記念したCDの発売が活発です。SOMMは、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団(RPO)の未発表ライブ録音盤を数点発売予定(*)。本当にあるところにはあるものです。 中でもデニス・ブレインが在籍していた当時、あるいはRPO退団後も数度参加していたとされる演奏会の録音とあれば、是非聞いてみたいものです。 この2月第1弾として発売されたSOMM-BEECHAM29。その第1曲、ワーグナーの序曲「リエンチ」は、1956年12月6日、ロイヤル・フェスティバル・ホールでの演奏ですが、デニス・ブレインの親友でもあったグラハム・メルヴィル・メイソンの解説によれば、首席ホルンはデニス・ブレインだとあります。(*) BEECHAM31 ティル・オイレンシュピーゲル、ドン・ファン(1955年) BEECHAM32 サン=サーンス交響曲第3番(1954年)
2011年03月27日 21時47分58秒
第158話「儀式のための音楽」
空軍中央音楽隊と空軍オーケストラによるプログラムは、ほとんどが耳慣れない曲ばかりですが、1939年に応召したデニス・ブレインが録音に参加していることはエリック・コーツやパーシー・フレッチャーのオーケストラ曲を聞けば判ります。 聞いているとペティットの伝記にある「歩哨、行進、軍靴や制服の手入れ等、様々な義務が課せられたが、デニスはこれら全てを受け入れ、不平も言わず淡々と実行した」様子が目に浮かぶようです。 ギル・シングルトン空軍中佐が2007年に出版された「ミュージック・イン・ブルー」に1943年4月1日、空軍中央音楽隊がバッキンガム宮殿の衛兵交替に登場したときの写真が載っていて、楽隊の中にブレインの見覚えのある額を見つけることができます。儀式 1. 英国国歌、希望と栄光の国 / エドワード・エルガー 2. 英国空軍の信号ラッパ集 英国空軍信号 総行進 マーカー(行進のため整列する際、位置決めをする人) 前進 起床 警戒警報 警報解除 帰営 衛兵交替 就床 消灯 3. ロイヤル・エア・フォース分列行進曲 / ヘンリー・ウォルフォード・デーヴィス&ジョージ・ダイソン 4. 敬礼、ヨーク公行進曲 (伝承曲) 5. 「フォール・イン・アンド・フライ」行進曲 / ノエル・ゲイ 6. 「ロンドンから来た若者」行進曲 / ルドルフ・オドンネル 連合戦隊国歌 7. ベルギー「ブラバントの歌」 8. チェコスロバキア「我が故郷いずこ」 9. フランス「ラ・マルセイエーズ」 10. オランダ「ウィルヘルムス」 11. ノルウェー「我らこの国を愛す」 12. ポーランド「ドンブロフスキのマズルカ」 13. アメリカ合衆国「星条旗」日曜の夜会 14. 立派に戦い抜け / ウィリアム・ボイド 15. 日暮れて四方は暗く / ウィリアム・ヘンリー・モンク晩餐会のための音楽 16. 彼女が山にやってくる 稼いだ6ペンス ブレス・エム・オール 空軍がやってきた フェドアップ・アンド・ファー・フロム・ホーム 樽を空けろ 17.「わがイングランドのロースト・ビーフ」(伝承曲) 18. イッツ・イン・ジ・エア / ハリー・パー・デイヴィス 19. ワルツ「スペイン」作品236 / エミール・ワルトトイフェル 20.「蝶々夫人」 オーケストラ・セレクション / ジャコモ・プッチーニ 21. 忠誠の歌 / エリック・コーツ 22. 応答どうぞ! / エリック・コーツ 23. 感傷的な舟歌 / パーシー・ フレッチャー 24. フェスティバル・オブ・エンパイア / ジョン・マッケンジー・ローガン 1〜15:英国空軍中央音楽隊 14、15:英国空軍合唱団 16:英国空軍ダンス・バンド 17〜24:英国空軍オーケストラ
2011年01月29日 13時30分40秒
第157話「伝記を書くということ」
音楽のダウンロードのみならず、本にもオンデマンドと称する新たな出版形態が出ていることに対して、新しいブレインの伝記作者曰く・・・ ご存知のようにひとりの人物の伝記に値するものを生み出すというは、多くの時間と日々と年月を要する辛い仕事です。それを書くことに絶え間ない努力と少しの才能の代わりになるものはありません。2010.1.10 スティーヴン・ギャンブル
2011年01月19日 21時25分36秒
第156話「インターネット配信」
昨年11月1日に英ビューラーから「ダウンロードのみ」で発売されたR.P.オドンネル中佐と英国空軍中央音楽隊、同オーケストラによる「Music for Service Occasions(儀式のための音楽)」をどうしても聞きたくて、iTunes 10をインストールして音楽をインターネット配信により購入することを決意しました! 生まれてこのかたLPレコード、オープン・リール・テープ、カセット・テープ、CDと音楽はいずれも丸いか回転するものを自分の部屋で聞くものという思いがあり、今世紀になって登場した新しいプレーヤーには目をつぶってきましたが、新発見のデニス・ブレイン関連の録音が聞けないとあればもうそんなことも言ってられません。 まず iTunes はアップル社のソフトウェアですが Windows XP でも動作します(そんなことも知らないのって言われそうですね)。ビューラーのサイトには Ring Tone と iTunes への入口が用意されていて、どちらも試聴と購入ができますがアルバム(24曲)はiTunesでしか購入できません。 支払に必要な個人情報の登録をするうちに英国のiTunesで7.99ポンドだったのが、日本のiTunesでは1500円になったりしますが、そこは一気に進めて自分のパソコン内に音楽を取り込めました。プレイリストでCDRに焼いたり、フルカラーでラベルも印刷できます。R.P.オドンネルの兄、P.S.G.オドンネルのお孫さん(歌手)のサイトを見つけました。http://www.alisonodonnell.com/ GENEALOGY(系図)あります。
2011年01月16日 19時53分02秒
第155話「英国の軍楽隊によるレコード」
エリック・バンクス中佐とイギリス空軍中央音楽隊(RAF)がグスタフ・ホルスト、ヴォーン・ウィリアムス、パーシー・グレインジャーといったガチな英国音楽を録音した「コンサート・バンドのための英国音楽」がレジス・レコードで復活しています(RRC 1326)。 EMIのプロデューサー、ブライアン・カルヴァーハウスが1984年と1986年に第1巻と第2巻の形でLPに録音したもので、弊サイトの重要な恩人の一人であるギル・シングルトン中佐(b1953)が主席パーカッションで録音に参加している、とあれば聞かなくては! 同じカルヴァーハウスの制作でヴィヴィアン・ダン中佐とロイヤル・マリーンズ・バンドによるホルスト、V.ウィリアムス、ウォルトンの音楽やイモージェン・ホルストとJ.L.ウォーレス中佐と RAF による「ホルスト/ブラス・バンドのための作品全集」(1966)といった名盤が最近見当たらないのはちょっと寂しいですね。過去記事「女王陛下の軍楽隊のレコード」はここ
2011年01月09日 12時11分16秒
第154話「Dennis Brain: A Life in Music」
新しいデニス・ブレインの伝記が2011年5月、米国ノース・テキサス大学出版より出版されます。スティーヴン・ギャンブル氏とウィリアム・リンチ氏の努力の賜物です。 Es tönt ein voller Harfenklang, den Lieb und Sehnsucht schwellen, er dringt zum Herzen tief und bang und läßt das Auge quellen. ブラームスの女声と2本のホルン、ハープのための四つの歌の中の「ハープが強く鳴り響く」の一節です。決して忘れられないCD「蘇るデニス・ブレイン」(2002年)のブックレットに掲載する同曲の歌詞対訳に関する私とリンチ氏とギャンブル氏に纏わるお話。 2001年初冬、木下直人さんのご協力によりCDのマスター作成を終えた私は、ブックレットの最終原稿を入稿しようとしていました。ところが何と言うことでしょう!ブラームスの四つの歌は、通常ドイツ語歌唱ですが、ノッティンガム・オリアナ合唱団は英語歌唱であることが締切直前の週末になって判ったのです。 そういえば1940、50年代の英国では戦争の影響のせいか原語ではなく母国語(英語)で歌うことがしばしばで(同じオペラでもコヴェント・ガーデンは原語、サドラーズ・ウェルズは英語という棲み分けがあります)、レコードでモーツァルトなんかもドイツ語ではなく、英語の歌詞で歌われていたことを思い出しました。 それから大慌てで英語歌詞を探しましたが、なかなか見つかりません。知り合いの外国人英語教師に電話口で聞いて書き起こしてもらうという無理も試みましたが、叶いません。それで藁をも掴む思いで相談したのがウィリアム・リンチ氏(彼は国際ビジネスマンでちょくちょく東京に来ていたので、ある機会にテスト盤を2枚渡していました)。リンチ氏曰く、1枚を英国のギャンブル氏に送っている。物書きのプロの彼なら、聞き書きが可能ではないかと。 週明けには原稿を再送しないといけないため、許された時間は土日のみ。すがる思いでギャンブル氏にお願いをしたところ、何とかやってみようと言うことに。それから少しずつ聞き書きが送られる都度和訳を繰り返すことニ十回以上。おまけに英国と日本は冬季で9時間の時差があるので随分迷惑をかけました。因みに上記の一節は次のように。 When e'er the sounding harp is heard Inspired by love and longing With greif unequal darts are stowed And tears our eyes o'er flowing おかげさまでCDは英語歌唱、ブックレットの歌詞はドイツ語という誤りは回避されるとともに、亡くなったケル・モセンさんの喪失感を埋めるほどの友情を得ました。ビジネスの世界では考えられませんが、デニス・ブレインという共通のアイドルのもとでは国籍や付き合いの長さは関係が無い、というのが実感です。 ギャンブル氏はその後、弊サイトへオーブリー・ブレインのページを提供しながら、英国で新しいブレインの伝記の為の取材や執筆を続け、またリンチ氏は合衆国におけるブレインの足跡や音源の探求と実際の出版までの努力を続け、今日の発表を迎えました。 みなさん!発売の暁には是非お求め下さい!スティーヴン・ギャンブル 水彩画家、英国ホルン協会会員、ノース・ヨークシャー州在住 これまでの著述 オーブリー・ブレインを讃えて 英国ホルン協会誌「ホルン・プレーヤー」 1993年4月号 ホルンの巨匠の手紙 同上 2007年12月号 2007年 フィルハーモニア管弦楽団 デニス・ブレイン没後50周年記念演奏会プログラムウィリアム・リンチ 国際ホルン (IHS) 協会会員、カリフォルニア州在住 2011年、サン・フランシスコで開催される IHS ホルン・シンポジウムで新しい伝記と未発表の音源を紹介する。
2010年12月25日 20時06分33秒
第153話「スマート卿とウェーバー」
ロンドン・フィルハーモニー協会 (LPS) とベートーヴェンの第九英国初演を成し遂げたジョージ・スマート卿。驚いたことに、演奏会のプログラムにそれぞれの曲の開始・終了時刻、演奏時間を書き入れたものが残っています。高じてベートーヴェンに個人的に会って第九や運命など幾つかの交響曲の楽章の正確な演奏時間を確認したいと、1825年7月30日、コヴェント・ガーデン歌劇場の俳優兼監督のリチャード・ケンブルを伴ってドイツへ旅立ちました。 ケンブルの目的は、「魔弾の射手」で名声を博していたドレスデン歌劇場の楽長、カルロ・マリア・フォン・ウェーバーに会って英語による歌劇「オベロン」の作曲を委嘱すること。ボンからライン渓谷をコブレンツまで下り、そこから3時間半歩いた保養地バート・エムスで結核療養中のウェーバーに会い、オペラの作曲と翌年の初演指揮の約束まで取り付けました。スマート卿はウィーンでベートーヴェンと数週間を過ごす中で当初の目的を果たし、帰国の途中、ドレスデンに立ち寄ってウェーバーと再会、さらに友情を深めました。 翌1826年、病を押してロンドンにやってきたウェーバーは、スマート卿の自宅に滞在してオペラを完成。4月3日には LPS とベートーヴェンの第7交響曲と自作の「オイリアンテ」「魔弾の射手」序曲を、同月12日にはコヴェント・ガーデンで「オベロン」の初演を指揮。6月5日の夜亡くなりました。スマート卿は、5月1日、LPS で「オベロン」序曲を指揮したほか、6月12日にはヘンデルのオラトリオ「サウル」の葬送行進曲を指揮してウェーバーの死を悼んだといいます。アーサー・サール ベートーヴェンの「合唱」交響曲:フィルハーモニー協会とジョージ・スマート卿 2010年、電子大英博物館ジャーナル
2010年12月14日 21時07分57秒
第152話「オーケストラの楽器」
ブレインのジークフリートのホルン・コールを納めたレコード「オーケストラの楽器」(HMV C 3622、1947年録音)。サブタイトルに「サー・マルコム・サージェント監修」とありますが、オーケストラ伴奏ではなく、ピアノ伴奏あるいは無伴奏による楽器紹介のレコードです。 ホルンに続きトランペットのハリー・モーティマー(1902-1992、ブラス・バンドの指揮者として有名)がハイドンの協奏曲第3楽章を、トロンボーンのスタンレー・ブラウンがモーツァルトのレクイエムから第4曲「妙なるラッパの響き」を、チューバのウィリアム・スキャンネルがワグナーの「名歌手」第3幕への前奏曲からのひとふしを吹奏します。 いずれもフィルハーモニア管弦楽団の主席奏者たちですが、B面のパーカッション編が傑作で名手ジェームズ・ブラッドショーがひとりでさまざまな打楽器を演奏し、ひとつひとつの演奏が余りにも短いために何の曲か考えているうちに、ベルが授業の終わりよろしくキンコンカンコン鳴るといった趣向。INSTRUMENTS OF THE ORCHESTRA RECORDED UNDER THE DIRECTION OF SIR MALCOLM SARGENT Brass 18 French Horn - Dennis Brain 19 Trumpet - Harry Mortimer 20 Trombone - Stanley Brown 21 Tuba - William ScannellHarp & Percussions 22 & 23 Harp - S.Goossens 24 Timpani, 25 Side Drum, 26 Bass Drum, 27 Cympals, 28 Triangles, 29 Castanetts, 30 Tamburine, 31 Xylophone, 32 Glocken Spiel, 33 Gong, 34 Bells - J.Bradshaw 金管楽器の前編 HMV C 3621 は木管楽器編でクラリネットの名手フレデリック・サーストンがウェーバーの協奏曲第2番(終楽章の抜粋)を吹いているそうです。 「オーケストラの楽器」に関する過去の記事 → ここ と ここ
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2010年11月18日 21時41分15秒
第151話「ブレイン伝その後」
スティーヴン・ペティットのデニス・ブレインの伝記(第2版)が Faber and Faber から再販売されています。本は1973年、第1版(ハードカバー)、1989年、第2版(ペーパーバック)、1998年、第2版の邦訳(山田淳さん訳、春秋社刊)が出版されてきましたが、何れも絶版。版権は Robert Hale が持っていますが、プリント・オン・デマンドという新しい印刷技術とビジネス・プロセスにより、デジタル印刷されるものです。
2010年11月14日 19時52分35秒