第141話「実験的ステレオ録音〜あえてオリジナルのモノラルで」 |
ベートーヴェンの第8やブラームスの交響曲の幾つかなどでブレイン時代のフィルハーモニア管弦楽団がステレオ録音を残しているのは、本当に幸いというものです。それとは逆にウォルター・レッグが当時まだ主流だったモノラルで残した名録音を是非にと再びこ世に出したのが、妻君のエリザベート・シュワルツコップ(1915-2006)でした。
1995年11月、いままでにないプロジェクトが企画された。デーム・エリザベート・シュワルツコップが、1956年12月ロンドン、キングスウェイ・ホールで自身主要歌手として参加した録音、リヒャルト・シュトラウスの歌劇「ばらの騎士」の新しいCD化を監修するという。EMIのアビー・ロード・スタジオにおける3日間、毎日10時間から12時間もの作業には、80歳のシュワルツコップと、シニア・トランスファー・エンジニアのアンドリュー・ウォルターのほか、元独エレクトローラのエンジニア、ヨハン=ニコラウス・マッテス博士が参加した。目的は、この39年前の録音をオリジナルのモノLPの音に出来る限り忠実に再現することだった。
この録音でプロデューサーのウォルター・レッグとバランス・エンジニアのダグラス・ラーターは、モノラル録音制作だけを担当したと言われる(1957年12月発売 Columbia 33CX1492/5)。実験的なステレオ版は、全然別の部屋でバランス・エンジニアのクリストファー・パーカーが制作。1959年12月に発売されたステレオLP(Columbia SAX2269/72)には、いくつかモノラルと違うテイクがあり、レッグが承認しなかったと言われている。
アラン・サンダース ICRC 1996年冬号より抜粋
今では当たり前のステレオ録音も「1957年から58年にかけては、アーティストからギャラの増額を要求されないように、レコード会社は内密で行っていた」というのはリチャード・オズボーンの著書「ヘルベルト・フォン・カラヤン」の一節です。
|
2010年06月19日 12時09分00秒
| |