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第327話「『人生のミサ』第2部への前奏曲」
 第2部への前奏曲は「山上にて」と題される部分への序奏に当たっている。ツァラトゥストラがただひとり高い山の上に立って広漠とした静寂のなかで思索にふけっていると、角笛が谷間にこだましてひびいてくる。当時RPOの首席ホルン奏者をつとめていた伝説的な名手デニス・ブレインと2人の同僚のホルンの音が美しく刻まれている。(東芝EMI「デニス・ブレインの芸術」三浦淳史)

 録音は1948年5月8日、2人の同僚とはイアン・ビアズとレイ・ホワイトであり、LPレコード時代から最新のDENNIS BRAIN HOMMAGEまで変わることはない。さらに元を正せばEMIが通信販売レコードレーベルとして英国で発足したワールドレコードクラブから1976年に発売した The Music of Delius - Volume1 World Records SHB 32が初出。RPOには1952年から1953年にかけての全曲録音もある(左掲)。

 ところが1992年に発売されたBeecham Edition CDM 764054 2のトラック13がブレイン関連のディスコグラフィーに若干の混乱を招いた。曲は「山上にて On the Mountain (Paa vidderne)」で人生のミサ第2部と同じサブタイトルを持っているものだから1995年のジョン・ハントのディスコグラフィー「Musical Knights」が『人生のミサ』第2部への前奏曲、1946年11月録音と掲載。これは1890年作曲の交響詩「頂きにて」の誤りで2017年にWarnerから発売されたディーリアスの管弦楽・合唱曲集では Paa Vidderne(On the Heights)に修正されている。曲は1946年11月8日、ロイヤル・アルバート・ホールでのディーリアス音楽祭の1曲目にリチャード・オースティンの指揮で演奏、11月26日にビーチャムが録音。

 いずれにせよBeecham Edition CDM 764054 2の Paa Vidderne は3番目の人生のミサ第2部への前奏曲ではないことは間違いなく、初出は1979年発売の The Music of Delius - Volume2 The Post War Years 1946-1952 World Records SHB 54。
 スコアより角笛(ホルン)は2番→3番→1番の順で登場。つまりビアズ→ホワイト(全曲盤はウッドバーン?)→ブレインの順かな…
2025年7月20日 18時52分
第326話「物欲の終わりに」
(左)オットー・クレンペラー ワーナークラシックス・リマスタード・エディション CD4(P2023)オリジナル・ジャケットはColumbia 33CX1241(P1955) ヒンデミット/組曲「高貴なる幻想」とブラームス/ハイドンの主題による変奏曲

(右)Angel S35491(P1959)シンフォニア・セレーナとホルン協奏曲

 1954年10月5日と6日、ジュピター交響曲を録音。翌7日の午前中はデニス・ブレインとヒンデミットのホルン協奏曲の収録する予定。レッグが4年前にこの作品を初演をしたブレインにレコーディングを依頼したものだった。

 クレンペラーは伴奏に同意したもののスコアをよく判っていなかった。昼休みにブレインはクレンペラーの遅いテンポと絞まりのないリズムについてレッグに不満を申し出た。クレンペラーがこのテンポを変えることを断ったため、常々レッグが「最も紳士的な男」と評するあのブレインが録音を完了させる筈の午後のセッションに来ることを拒んでしまった。

 騒ぎの後、ロッテ(クレンペラーの娘)が父の今後のフィルハーモニアとの関係に不安を感じ、蒼白な顔でレッグのオフィスに突然やってきた。同じくトラブルを避けたいと望んだレッグはホルン協奏曲を止めてヒンデミットの組曲「高貴なる幻想」にすることを提案した。全ての面目が保たれ、ヒンデミットの組曲とともにモーツァルトの交響曲第29番、ブラームスのハイドンの主題による変奏曲が何事も無かったように録音完了した…」

ピーター・ヘイワース著「オットー・クレンペラー〜その人生と時代 第2巻、1933−1973」
(ケンブリッジ大学出版、P1996)より

 スティーヴン・ペティットのブレイン伝でブレインが大人の対応をして残る録音に参加したように書かれていますが、アメリカのロバート・マーシャル教授はディスコグラフィー「デニス・ブレインのレコード」(P1996)でいずれにも参加していないとしています。

 以上、曰く因縁つきの未完成録音が、この世に出たものですからとても興味あります。時間はクレンペラーが3'13"、ヒンデミットが3'16"と大差ありません。

過去記事「ヒンデミットあれこれ」

2025年7月5日 11時23分

第325話(削除)
2025年3月1日 20時14分

第324話「サージェントのベートーヴェン」
 サージェントとナショナル交響楽団(NSO)のベートーヴェンについてロバート・マーシャルのディスコグラフィー「デニス・ブレインのレコード」1996年初版(マーガン・ミュージック社)と2011年第4版(インターネット版)で相違があります。

 1945年11月27日録音の交響曲第4番(Decca K1349-50)は、初版に記載されていませんが、第4版には記載されている。逆に1945年1月2日録音の交響曲第5番(K1126-29)は初版に記載、第4版には無い。

 ディスコグラフィー上の発見とデニス・ブレインの足取り(※)を重ね合わせた結果だと思います。


 ※ 英国空軍オーケストラとバンドの米国演奏旅行中(1944年12月18日〜1945年3月1日)のNSOの主な録音

1945/1/2 ベートーヴェン/交響曲第5番「運命」マルコム・サージェント指揮 
1945/1/3,4 チャイコフスキー/交響曲第4番 マルコム・サージェント指揮
1945/1/19 ロッシーニ/「セヴィリアの理髪師」序曲 カール・ランクル指揮
1945/1/19 ウェーバー/「オイリアンテ」 カール・ランクル指揮序曲
1945/1/26 ベートーヴェン/交響曲第7番 アナトール・フィストラーリ指揮
1945/2/9 ロッシーニ/「ウィリアム・テル」序曲 ヴィクター・オロフ指揮
1945/2/15 ブラームス/交響曲第4番 カール・ランクル指揮 
1945/2/23 モーツァルト/交響曲第39番 ワルター・ゲラー指揮
1945/2/23 チャイコフスキー/幻想序曲「ロミオとジュリエット」アルバート・コーツ指揮 


 2025年2月23日 16時31分

第323話「クラシック音楽原体験/バレエ「胡桃割り人形」葦笛の踊り」
 小学校のときの学芸会でクラスの女の子二人が、講堂の小さなアークの舞台で演じたチャイコフスキーのバレエ「胡桃割り人形」が私のクラシック音楽原体験。

 暗くした舞台で青いスポットライトを浴びた白い衣装のバレリーナ。とても幻想的で今でも目に浮かびます。
2025年2月22日 20時25分

第322話「十八番(おはこ)/王宮の花火の音楽」
 1946年2月5日と6日、マルコム・サージェントとロンドン・ナショナル交響楽団によるキングスウェイ・ホールでの録音。同じセッションでベルリオーズの「ベアトリーチェとベネディクト」序曲、キャサリン・フェリアーの独唱によるバッハのマタイ受難曲から「主よ、憐れみ給え」も。

 ヘンデルは、イギリスのオーケストラにとって特別な曲ですが「王宮の花火」の録音はこれしかない。
2025年2月22日 18時41分

第321話「英国空軍の飛行機乗りだったロバート・アーヴィング(1913-1991)」
 ジョン・ハントのディスコグラフィー「フィルハーモニアを作った人々 Makers of the PHILHARMONIA」の11人の指揮者のうちのひとり、ロバート・アーヴィング(1913-1991)。指揮者になる前は英国空軍の飛行機乗り(Squadron Leader 少佐、Leading Aircraftman 技能兵 のデニス・ブレインより偉い)だった異色の人。前の話のアーネスト・アーヴィング(1878-1953)と縁戚関係は無い。フィルハーモニア管弦楽団とEMIに遺した録音19曲でチャイコフスキーの幻想序曲ハムレットとドホナーニの組曲以外は全部お得意のバレエ音楽ときました。左はドリーブの「シルヴィア」から狩の女神。ホルンがセクションでカッコいい!  
2025年2月8日 13時31分

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