1957年9月2日

デニス・ブレイン

 極めて稀なことながら、一人の名プレーヤーの演奏でそのオーケストラをすぐさま見分けられることがある。 戦前のレコードではロンドン・フィルハーモニーのオーボエ奏者、レオン・グーセンスが常にその例に当たるが、 戦後ではホルンのデニス・ブレインによってフィルハーモニア管弦楽団を正確に言い当てることができよう。 彼の音色には独特の感性があった。つまりフランスの奏者の鼻にかかったような音とは全く違い、そしてまた ウィーンのホルン奏者の熟しきった音色とも。デニスの音色はイギリスのホルン奏者、いやブレイン家の中でも際立っていたといえるだろう。

  幸運なことに、その短い生涯にもかかわらずブレインは限られたホルンのレパートリーの中から沢山の素晴らしいレコードを残した。 そして彼自体が、作曲家たちを触発しホルンのレパートリーが広まった。コロンビア・レコードのモーツァルトのホルン協奏曲はこの先ずっと ベスト・セラーになるに違いない。ベンジャミン・ブリテンの不朽の名作、テノールとホルンと弦楽器のためのセレナードはブレインの演奏と ともに人々の心に残るだろう。少なくとも、今までの大演奏家とは違い、ブレインの演奏は忘れがたいものとなろう。


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