レコード芸術1959年6月

ホルン協奏曲第1番変ホ長調作品11、第2番変ホ長調(R.シュトラウス)

ブレイン(ホルン)ザヴァーリッシュ指揮 フィルハーモニア管弦楽団(C RL3044)

 ホルンの好きな人には絶対みのがすことのできないレコードだろう。カラヤン指揮のフィルハーモニア管弦楽団と協奏したモーツァルトの四つのホルン協奏曲を一枚にしたものとともに一昨年9月、イギリスで自動車事故の為に不慮の死をとげたデニス・ブレインがLPに残した最良の形見であり、その演奏は朗々としていて何等あぶなげがない。しかも音楽が豊かで、彼がこの楽器の当世無類の名手だったことを証明するものだ。演奏会の曲目を飾るホルンの協奏曲といえばこの2枚の6曲にまず尽きるといってもよいだろう。しかしモーツァルトはよいとして、こんどのリヒアルト・シュトラウスのレコードがホルンをさまで愛さない人、あるいはシュトラウスに特別興味をもたない人々にとってどれだけ魅力があるかは疑問だ。

 シュトラウスがこの楽器のために協奏曲を書くことになったのは、モーツァルトがロイトゲープと知り合った以上に特殊な事情が動機になっている。彼はミュンヘン歌劇場のオーケストラで首席ホルンをやっていた有名なホルン吹きの息子だった。そして幼い頃から家庭でいつも父親のホルンをきいていて、18歳の時に作曲した第1番はこの父親の独奏で楽壇に紹介されている。いうなれば父はわが子を、子はわが父を、たがいに持ち上げようとしてこの作品が生まれたのである。ホルンを充分に駆使して協奏曲らしい華麗な効果をあげているのはこの第1番のほうで、演奏される機会も第2番よりも多い。これに対して第2番は62歳の時の作曲で、シュトラウス晩年の爛熟し切ったロマン趣味を現していて、こった手法で耽美的な、また肉感的なひびきを出しているのが目につく。しかしそれが部分的な効果に終わっていて、全体としてのまとめ方に難があるのがシュトラウスの創作力の衰えを物語っている。またこの曲では協奏曲とはいいながらホルンがほとんどオーケストラの一員のように取扱われ、ホルン独奏付の交響曲といった趣きを呈している。

 ザヴァーリッシュの指揮は見事だ。伴奏指揮者としての完全なテクニックを見につけているばかりか、シュトラウス独特の香りをあくどくなく表出しているのが、彼のシュトラウスやワーグナーの楽劇に対する期待を高めずにはおかない。ただこの盤は、録音効果が十分でない。ホルンの音はまずよいのだがオーケストラのひびきがやや緻密でなく、フォルテでかなり音が汚れるのは惜しい。


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