夢中人のドキドキ英国旅行

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投稿者:夢中人 - 投稿日時:2000年08月31日 21時33分30秒
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1992年7月、夫婦にとって初めての、そして念願の英国旅行に出かけた。格安フリープラン旅行の表向きのテーマは、「ロンドン・エディンバラ歴史散歩」としたが、妻には内緒の裏テーマがあった。それは天才ホルン奏者デニス・ブレインの足跡を行脚すること。以下、旅のメモをまとめてみた。

7月16日(晴れ)
半日2階建てバスでロンドン市内を観光後、午後からは地下鉄1日乗車券をフル活用し「ホール巡り」を行う。
1. ロンドン・コリシアム
オーストラリア・バレエの《コッペリア》の前売券を買う。音楽情報誌What’s on?に出ている割引広告を出すと、窓口嬢はなぜか渋い顔。
2. ロイヤル・オペラ・ハウス
古代ギリシャ時代における白亜の神殿の如き威容と思いきや、案外大きくない。けれど私の如き初心者には敷居が高い。
3. ロイヤル・フェスティバル・ホール
眺めの良いテムズ河畔にあるコンクリート剥き出しの戦後派ホール。あのトスカニーニ・コンサートやホフナング音楽祭はここで行われた。中には音楽関係書籍を扱う売店がある。
4. ロイヤル・アルバート・ホール
おりしもプロムスが行われており、4日後のBBC交響楽団の前売券(最低ランクの4ポンド)を購入する。「ホール巡り」もこのあたりで妻の我慢が限界。向いのハイド・パーク内サーペンタイン湖畔で夕食とし、その後近くのハロッズでお買い物となる。音楽ショップHMVでのCD漁りはやむなく中止である。

7月17日(晴れ)
ヒースロー空港よりエディンバラへ飛ぶ。機内で美味しいイングリッシュ・ブレックファーストを味わう。このスコットランドの古都は真夏なのに秋の風情といった趣。ホリールード宮殿見学後、お土産にセーターを買う。
街角でフィッシュ・アンド・チップスを買って腹ごしらえ。エディンバラ城見学後、昨日のホール巡りの続きでアッシャー・ホールへの道を急ぐ。1957年8月31日、このホールでのフィルハーモニア管弦楽団公演でオール・チャイコフスキー・プログラムを終え、ロンドンの自宅に向け愛用のトライアンフTR2を駆った運命の夜!
私はホールの車寄せをフラフラと上り、しばし感無量で立ち尽くした。まもなく帰りの飛行機の時間が迫り、後ろ髪を引かれる思いでホールを後にする。さようならアッシャー・ホール、本当にさようならデニス・ブレイン…。

7月18日(曇りのち晴れ)
ロンドン塔見学後、メリルボーンの王立音楽院(RAM)に行く。1936年から戦争で空軍音楽隊に入るまでここでデニスは父オーブリーに師事した。赤レンガと白壁のツートン・カラーの建物のドアを思わず開けてしまい、気難しそうな受付の老人に入館の許可を請うたが、返事は冷たくNo!。なお未練がましく立っていると、わざわざ近寄ってきて立派な冊子をくれた。なんと入学案内だ!
上気しながら戦前の雰囲気を残す町並みをウィグモア・ホールに向かう。ホールはあいにく改装中だったが、1943年10月15日、ここでベンジャミン・ブリテンがデニスの才能のために書いた「テノール、ホルンと弦楽合奏のためのセレナード」が初演された。
 夜、ロンドン・コリシアムで《コッペリア》。ハード・スケジュールのせいで眠い。

7月20日(晴れのち嵐)
大英博物館へ行く。私が写真ばかり撮っているので、妻はお冠である。広い館内足を棒にして回り、最後に写本室で大作曲家の自筆譜を見ているうちに、なんと!ブリテンの「セレナード」を発見。疲れがいっぺんに吹き飛ぶ。
夜といっても英国の夏はなかなか暮れない。かねて手配した切符を手に、ロイヤル・アルバート・ホールのプロムスへ行く。アリーナと呼ばれる一階は、以前テレビで見たとおりの立ち見である。ビニール・シートを敷いて横になっている人もいる。中央にかわいい噴水がある。
プログラムの最初はシベリウスの1番。途中で雨が降ってきたらしく、屋根を叩く雨音が喧しい。第3楽章スケルツォで雷鳴がティンパニと掛け合いとなった。自然がオーケストラと共演している。
BBC委嘱作の初演を挟んで、1950年5月22日、このホールでウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮フィルハーモニア管弦楽団が初演したリヒャルト・シュトラウス作曲「四つの最後の歌」を聴く。
帰り道、周囲の英国人は少々の風雨には一切頓着せずワイワイと話ながら歩いている。私は秋風のそよぐような老シュトラウスの音楽を頭に響かせながら当時のデニスに思いを馳せる。

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